青宙通信 2017年度第5号
どうも、編集長です!
前号の導入において、6月には観測会は行われないと書きましたが、実際のところ24,25日に行われました。お詫びして訂正いたします。まあ、例年は行われていなかったですし、結構急な話でしたからね。
というわけで、皆さま6月観測会お疲れ様でした!自分は参加できなかったので、広報からの報告記事を楽しみに待ちたいと思います。
さて、今回の執筆者は、横須賀文哉くん、駒田智紀くんのお二人です。この二人といえばこれ、というテーマを書いてくれていますよ。たいへんためになる内容だと思います!
こんにちは。横須賀と駒ちゃんです。今回は天体の話ではなく、天体を美しく撮影するにはどうすればよいか、というカメラ関係の話をしたいと思います。いつも僕たちが観測会で何をやっているのか、これを読めば少しわかるかも?
それでは、カメラの基礎知識と簡単にできる星の撮影について説明していきます!
カメラの基礎知識
スマホやコンパクトカメラのような、シャッターを押すだけで写真が撮れるカメラというのは星空の撮影には向きません。暗い星空を撮るためには、自分で設定が弄れて高感度耐性(詳しくは後述)に優れたデジタルカメラが適しています。一眼のような、かさばるカメラですね。
まずは、カメラの設定をする際の用語を解説していきます。
シャッタースピード
シャッタースピードとはそのままの意味で、どの程度の速さでシャッターを切るか、というものになります。速いシャッターだと動くものでもキレイに捕えることができますが、写真の明るさは暗くなります。逆に遅いとブレやすくなりますが、明るい写真になります。
ISO
ISOとは、カメラが光をどのくらいの感度で受けるか、という値のことです。デジタルカメラは撮像素子に当たった光を電気信号に変えて処理しますが、ISO感度を上げることは、この電気信号を増幅することになります。よってISOを上げることで写真は明るくなり、下げることで暗くなります。
じゃあ上げた方が得じゃないかと思うかもしれませんが、先ほど述べたように、ISO感度を上げると電気信号は増幅され、これと同時にノイズも増幅されてしまうため、ざらついた写真になってしまいます。
ISOが高い状態を高感度と言いますが、星空は暗いのでISOを上げる(=高感度にする)必要があります。高感度耐性に優れたカメラが星空の撮影に適しているというのは、このためです。
F値
F値は絞りとも言い、どのくらいの光の量を通すか、という値になります。小中学校の理科で使った顕微鏡の絞りと同じものです。F値は小さいほど光を通し、明るい写真になります。逆に大きいと通る光の量が少なく、暗い写真になります。
また、一眼レフカメラはピントの合っていない範囲がコンパクトカメラよりボケやすい特徴がありますが、F値を大きくすることでピントの合う範囲を広げることができます。
暗い星空を撮るには明るいレンズ(=F値の小さいレンズ)が適していますが、F値の小さいレンズは大きく重たかったり、値段も高いものが多いです。
AF/MF
AFとはオートフォーカス、MFはマニュアルフォーカスのことで、フォーカスを合わせる(=ピントを合わせる)作業をオートで行うかマニュアルで行うか、というものになります。一眼レフのようなカメラだと、レンズにスイッチがあります。
暗い夜空の撮影では、カメラがどこにピントを合わせてよいか判断しにくく、AFが使えないことが多いため、通常マニュアルで合わせます。
ノイズ除去
これは、カメラが撮影時にノイズをある程度キャンセルしてくれる機能のことです。高感度(=ISOが大きい)での撮影や、シャッタースピードが長い撮影などの際に発生するノイズをカメラが補正してくれる機能ですが、星空撮影の際にはこれはOFFにしたほうがよいといわれています。
暗い夜空の撮影には長いシャッターや高感度は必須だから、ONにしたほうがいいんじゃないの、と思うかもしれませんが、このノイズキャンセル機能によってせっかく撮った星までもノイズと勘違いされ、消えてしまうことがあるのです。
フラッシュ
フラッシュは暗いところでの撮影の際に、強い光で照らすことで明るさを確保するためのものですが、夜空には届きません。まったく意味がないうえに横須賀が怒るのでやめた方がいいです。(´・ω・`)
機材
星空の写真を撮るために必要なものです。まずは、これがないと撮れないよという必須のものから。
カメラ
これがないとどうやって撮るんだって話になります。基礎知識で話した、設定が自分で弄れ、高感度耐性のある一眼レフデジタルカメラが適しています。
三脚
これも必須です。シャッタースピードを遅くするとどうしても手ブレが起きてしまうので、カメラを固定するために必要です。
三脚もかさばって持ち運びが大変ですが、大きくて重いものが適しています。三脚の質はパイプ径(=足の太さ)、重さ、耐荷重、素材などで決まりますが、足が太くて重い方が踏ん張りが利き、望ましいです。
ここからは必須じゃないけどあったら便利なものです。
レリーズ
直接カメラに触らずにシャッターを切れるので、カメラに近づく際のわずかなブレを防ぐことができます。しかし、頑張って揺らさないようにする、セルフタイマーを使うなどの方法もとれ、さらに最近のカメラではスマホと無線接続ができ、それで代用できるために必須ではありません。
星座早見・懐中電灯
星座早見盤もあったら便利ですが、星空を予習して覚えておく、スマホのアプリで代用する、などの方法もあるため、これもなくてもいいです。懐中電灯は、暗いなか歩いたり作業をするのであった方がいいと思います。ただあんまりチラチラ照らすと、また横須賀が怒るのでやめましょう。
赤道儀
夜空の星は動いています。シャッタースピード30秒でも、星は流れて線のように写ってしまいます。星を点で捕えるために、星の動きに合わせてカメラを動かしてくれるものですが、ちょっとお値段が張るみたいです。シャッタースピードを短くすることで対応はできるので、そこまでこだわらなければ必須ではないかと。
防寒着
夜なので寒いです。特に、空のきれいな冬の夜はガクブルです。必須な気がしますが、気合で何とかなる人もいると思うのでこっちに書きました。
環境・天気
撮影環境は町明かりが少なく、空が暗いところが適しています。いわゆる田舎ですね。相模原キャンパスでも十分田舎ですが、観測会でわざわざ山奥に行くのは、さがキャン周辺と言えど明るいからです。
天気は、当然ですが晴れた方がいいです。GPV気象予報(http://weather-gpv.info/)というサイトをよく参考にしていますが、ただの天気予報ではなく雲の動きまで見ることができる予報サイトがおすすめです。
撮影
一眼レフの大体のことは理解できましたか?それでは、実際の撮影に関して説明していきたいと思います。簡易な機材で撮影できるものに、月と星景があります。星景とは、星と風景を一緒に写したもののことです。なお、ここで紹介する月と星景の撮り方はあくまで一例であり、持っている機材によって多少変化するので、詳しくは自分で調べてみてください。また、星雲や銀河の撮影は難しく、特殊で高価な機材を必要とするのでここでは省きます。
月の撮り方
月は、最も容易にとれる星の一つです。撮影地は自宅の庭や公園など、どこでも構いません。焦点距離は、月のみを撮影するのなら100-300mm、風景の一環として撮影するなら30-100mmでピントを合わせることをお勧めします。
ちなみに、焦点距離が短くなるほど画角が広く、つまり写る範囲が広くなります。逆に焦点距離が長くなると、画角が狭く、つまり写る範囲が狭くなります。だから、全体的な風景を撮りたいときは、焦点距離を短く(広角にするという)し、遠くの被写体を大きく映したいときは、焦点距離を長く(望遠にするという)するのです。
風景の一環としての撮影において、なぜ30mmより広角を使わないかというと、月が小さくなり、全体的にどのような写真かわかりにくくなってしまうためです。月齢ですが、慣れるまではピントの関係上、満月などの明るい月から狙うべきでしょう。
撮影手順(月)
①カメラの設定をする。
まずカメラをマニュアルモード、ライブビュー(ファインダーを覗かずに液晶画面を見て撮影できるモード)にします。また、MFにしてください。
②三脚に固定する。
三脚を舗装された地面などガタつかない地面に立て、カメラを取り付けます。
③ピントを合わせる。
いきなり月を高倍率で捉えようとすると、画面の中になかなか納まらず時間がかかってしまいます。そのため、慣れないうちは広角で画面の中央で月を捉えてから、徐々に望遠へと変化させたほうが良いです。顕微鏡で生き物の観察するときも、最初は低倍率の対物レンズを使いましたよね。
ピントは、レンズのピントリングを回して合わせます。ピントを合わせる際に月の模様に目が行きがちですが、注目して欲しいのは月の淵です。模様を見るより、より正確にピントを合わせることができるからです。月と夜空の境目が最もくっきりとした場所が、ピントが合った場所です。
④撮影
いくら三脚を用いても、シャッターボタンを押す際の振動で写真はぶれてしまいます。そのため、レリーズを使ってカメラを直接触らないようにして撮影します。レリーズを持っていない場合は、セルフタイマー機能を使うなど工夫をし、シャッターボタンを押す際の振動をなくしましょう。
写真が明るすぎる場合、F値を大きくするか、シャッタースピードを短くする、またはISO感度を小さくします。暗すぎる場合は、その逆でF値を小さくするか、シャッタースピードを長くする、またはISO感度を大きくしましょう。また、撮影で重要なことは、いきなり完璧な写真を撮ろうとするのではなく、何度も設定を変えたり、ピントを変えたりして試行錯誤することです。この試行錯誤も、写真撮影の醍醐味の一つですよ。
地球照の撮り方
写真の明るい星は、宵の明星です。地球照は、地球で反射した太陽光が、月を照らすことによって生じます。本来、月の欠けて暗くなっている部分が見えることがあるのです。三日月など月が細く、空気が澄んでいるときに肉眼でも容易に観測できます。地球照は満月に比べとても暗いので、数秒間の露出を必要とします。露出というのは、撮像素子に光を当てることです。ここでは、シャッタースピードを遅くすることが求められます。
ここでポイントなのが、あえて月を白く写すことです。とても暗い地球照と、明るい月を同時に写すことは難しく、特殊な撮影や編集をしないといけません。そのため、地球照を撮る際はあえて月を犠牲にして地球照を綺麗に写します。そのほかは月の撮り方で説明したものと同様です。
月食の撮り方
月食とは地球が太陽と月の間に入り、地球の影が月にかかることによって月が欠けて見える現象のことです。撮影は、地球照の撮り方の応用で撮ることができます。具体的には、ISO感度を下げるなどより暗めの設定にすればよいと思います。今後2017の8月8日に部分月食、2018年1月31日に皆既月食が見られるので、ぜひ観測・撮影をしてみてください。
星景の撮り方
星景写真は風景と星空の両方を一枚の写真で撮るため、空と風景が広く写せるような広角のレンズを使いましょう。一度に多くの星座や広い風景を写す場合、超広角のレンズを用いますが、非魚眼レンズの場合、写真の端のほうの歪みが強くなるので注意が必要です。
撮影手順(星景)
①カメラとレンズの設定
これは撮影手順(月)の項目にある①②と同様に行ってください。
②ピントを合わせる
これは、月を撮るときと違ってとても難しいです。星は月と違って小さく、ピントが合っているかどうかの確認が難しいからです。ライブビューモードにある画面拡大という機能を使って、画面に明るい星を捉えます。その星が最も小さくなるようにピントを合わせてください。
③撮影
F3.5 シャッタースピード 30秒 ISO 400
上の設定を起点として明るさを変化させるといいと思います。30秒のシャッタースピードだと星が線のようになってしまい気になる場合は、シャッタースピードを短くしてみてください。星景撮影のポイントは、やはりピントです。ピントを画面上でいくら正確に合わせても、実際はピンぼけしていることが多いです。そのため、良い写真を撮るには撮った写真を拡大して、ピントがずれていたらまた直すという作業を根気強く繰り返すしかありません。カメラで星を撮ってみて、何も写らないからといってすぐに諦めないでください。カメラやレンズが悪いのではなく、大抵はピントが合っていないため星が写らないのです。このピントなどの設定の仕方も、何度か試行錯誤するうちに感覚でわかってくると思います。星を撮るのは難しいと食わず嫌いにならず、ぜひ挑戦してみてください。
7月の天体イベント
7/1(土)
月と木星が接近(スピカの近くにて)
7/7(金)
七夕
月と土星が接近
7/9(日)
満月
7/14(金)未明から明け方
東の空において、明けの明星(金星)とアルデバランが最接近
(7月中旬の時期、これらの星は接近している)
7/20(木)午前中
7/23(日)
7/25(火)夕方
水星食
7/30(日)
みずがめ座δ(デルタ)南流星群、やぎ座α流星群 極大日
編集後記
六月観測ではホタルが見られましたが、今回の知識を使って星に限らず、夜空を舞うホタルの光も撮ることができます。
星空の撮影というのはスマホのカメラでは難しく、ある程度の機材がないと厳しいと思いますが、月や日食時の太陽なんかはスマホや小さいカメラでも撮れます。投資が必須でハードルが高いので、手の届く範囲で楽しんでもらうのが一番かなと思います。(駒田)
書きたいことが多すぎて、どのようにまとめるか悩みました。
いやー、前号に引き続き、2年男子によって青宙のハードルが上げられてきていますね。私もいち読者として、とても面白かったです。来号は大学のテスト期間とかぶるので、更新のタイミングが前後するかもしれません。ご承知おきください。って、まあいつものことか。(二口)
参考文献
- AstroArts https://www.astroarts.co.jp/alacarte/2017/index-j.shtml
- 国立天文台 http://www.nao.ac.jp/astro/sky/2017/
画像引用元